平成11年度に行った室内実験により、安定成層流中ではアクティブスカラ(熱)とパッシブスカラ(物質)の乱流拡散係数が大きく異なる値を持つこと示された。そこで、まず本年度は、大気中のような気相の温度成層流中でも乱流拡散係数が異なるのかどうかを直接数値計算によって確認した。その結果、気相の温度成層流中でも乱流拡散係数に違いが存在することが確認された。すなわち、従来から勾配拡散型のモデルにおいて仮定されてきた「物質の乱流拡散係数が熱の乱流拡散係数と同じ値をとる」、あるいは、「両方の乱流拡散係数が同じ浮力の効果を受ける、つまり、それらの乱流拡散係数の比が一定値をとる」とする仮定が液相中においても気相中においても完全に誤りであることが実験と直接数値計算の両方から確認された。そこで、液相での室内実験および液相と気相に対する直接数値計算の結果をもとに、新たな乱流拡散係数に基づく数値モデルを提案した。その結果、アクティブスカラとパッシブスカラの乱流拡散係数の浮力による依存性は、浮力振動数を時間で無次元化した無次元時間によりモデル化できることがわかった。本年度の研究では、開発したモデルを実際に組み込んだ拡散予測を行うまでには至らなかったので、具体的にどの程度の拡散予測誤差が生じるかを定量的に示すことはできなかったが、本研究で得られた結果は、従来の乱流拡散係数の比が一定値をとるという勾配拡散モデルを用いてパッシブスカラである物質の拡散予測を行った場合には、大きな拡散予測誤差を生むことを示している。
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