粘菌行動の反応拡散移流モデルに学ぶシステムの自己組織化

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11750222
• 研究機関: 理化学研究所
• 研究代表者: 中垣 俊之 理化学研究所, 制御系理論研究チーム, 基礎科学特別研究員 (70300887)
• キーワード: Slime mould / Physarum / amoeboid movement / rhythm / oscillation / pattern formation / reaction-diffusion / entrainment

研究概要

粘菌行動が結合振動子系の自己組織化現象として捉えられることを以下のように示した。
1)変形体が迷路を解く能力を持つ事を示した。その解法を、アクトミオシン蛋白質の細胞生理学的な性質を基に示した。原形質という機能性物質による迷路探索の計算アルゴリズムを提案した。変形体の情報処理機能も高度である。
2)相異なる二個所に餌を与えた状況(ジレンマの状況)での変形体の振る舞いを調べた。変形体は、餌の量、変形体自身の大きさ、餌場所間の距離に依存して、1)変形体チューブの回路網を巧みに再構成し餌間の最短経路を発見する、2)二つの個体に分裂する、などを見せた。また変形の順序に一定の幾何学的法則性がある事を発見した。変形体の、運動機構と巨大体制の維持機構について、その糸口をつかんだ。
3)変形体チューブのつくる様々なネットワーク形態を誘導し得た。これを利用し、管形成と収縮パターン形成との相互依存性を明らかにした。チューブネットワークと収縮リズムのパターン形成機構の枠組みを提案した。
4)パターン形成機構を反応拡散移流方程式系で定式化した。その解析により、収縮リズムの揺らぎ現象、収縮波の分散関係を明らかにした。また、理想化した可解モデルとして移流のあるラムダーオメガ系を構成し、収縮波の性質を示した。このモデルを、チューブパターンの形成モデルヘと拡張しつつある。
5)変形体を周期的な光照射により刺激し、収縮リズムパターンと走光性への影響を調べた。収縮振動子の相互引込み現象が、変形体の判断機能(光に対して寄るか逃げるかの選択)を担うことがわかった。

研究成果

• [文献書誌] Nakagaki T.,Yamada H.and Ito M.: "Reaction-diffusion-advection model for pattern formation of rhythmic contraction in a giant amoeboid cell of the Physarum plasmodium"Journal of Theoretical Biology. 197. 496-506 (1999)
• [文献書誌] Yamada H.,Nakagaki T.and Ito M.: "Pattern formation of a reaction-diffusion system with self-consistent flow in the amoeboid organism Physarum plasmodium"Physical Review E. 59. 1009-1014 (1999)
• [文献書誌] Nakagaki T.,Yamada H.and Ueda T.: "Modulation of cellular rhythm and photoavoidance by oscillatory irradiation in the Physarum plasmodium"Biophysical Chemistry. 82. 23-28 (1999)
• [文献書誌] Nakagaki T.,Yamada H.and Ueda T.: "Interaction between cell shape and contraction pattern in the Physarum plasmodium"Biophysical Chemistry. (in press). (2000)
• [文献書誌] 中垣俊之、山田裕康: "粘菌変形体の収縮リズムパターンと行動"数理生物ニュースレター. 29. 63-78 (1999)
• [文献書誌] Nakagaki T.and Yamada H.: "「Quantum Information II」(Rhythmic contraction and its fluctuations in an amoeboid organism of the Physarum plasmodium)"World Scientific Publisher Co.(in press).