近年、社会の高齢化に伴い尿失禁患者が急増しており、その治療法の確立が急がれている。現在用いられている電気刺激療法は電気刺激による肉体的な痛みを伴う欠点があるため、最近、磁気刺激療法による治療が脚光を浴びている。この磁気刺激医療装置の実用化を達成するには、生体内の所望の部位において治療効果を上げるのに十分な大きさの渦電流を発生させるという制約条件下で、いかにして機器の電源容量を小容量化するかが最大のポイントとなる。本研究課題では、限られた電源容量下で最大の治療効果をもたらす生体内渦電流分布の形成を目標として計算機を用いた電磁界数値解析に基づく磁気刺激尿失禁医療装置の最適化設計を行い、その実用化を試みた。 本年度では、前年度の「変動磁場発生コイルの断面形状・湾曲構造の最適化、および複数の独立コイルによる磁気刺激システムの構築」で得られた結果をさらに展開し、「複数コイルと磁性材料の併用による高効率な磁気刺激システムの構築・最適化」を検討した。一般に用いられている空芯の変動磁場発生コイルに対し適切に磁性材料を挿入、複数のコイルと結合させることを試み、形成可能な生体内渦電流分布の自由度を一層増加させることに成功した。具体的には、3次元電磁界解析と最適化手法を組み合わせることで磁性材料の最適な分布を探索し、同一電源容量下で単一コイルを使用した場合と比較して、特定の生体内刺激部位に発生する渦電流密度のピーク値を倍以上に増やせることを明らかにした。また、電磁界の3次元解析を行う際に複雑な外部回路の考慮方法を詳細に検討し、特に電源として外部回路内に蓄電池を導入した場合を視野に入れ、蓄電池充放電特性の高精度なモデル化手法を提案し、その妥当性を実験値と計算値の比較により明らかにした。
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