ソリッドイマージョンレンズを用いたサブミクロン空間分解能を有する高分解顕微蛍光計測法により、へき開再成長法により作製したT型量子細線、(110)GaAs量子井戸の界面・電子状態の空間分布を調べた。また、その結果を基に成長方法を改善し、界面の品質改善、電子状態の特性向上を試みた。 顕微分光画像計測でのシャープな発光ピークの観測とその空間分布から、T型量子細線を形成する(110)量子井戸の井戸界面には、面内方向にμmサイズの原子層テラスが全体で3〜4原子層にもわたる大きな界面ラフネスが存在していること、その界面ラフネスにより面内閉じ込めを受けた量子ドット様局在状態が形成されていること、またそのエネルギー分布によりマクロ的には広い線幅の発光が観測されることがわかった。T型量子細線においても、シャープな発光ピークが観測され、発光空間分布も(110)量子井戸と類似な結果が得られており、量子細線の電子状態に(110)量子井戸の電子状態が大きく反映される事がわかった。 この量子細線の品質向上には、この大きな(110)界面ラフネスを小さくする必要がある。そこで、今回、成長方法を改善し(110)界面の改善を試みた。へき開再成長表面のAFM測定により、へき開再成長後の成長表面で成長中断アニール処理を行うことで、表面モフォロジーが著しく改善されることがわかった。特に、基板温度490℃でGaAs層成長後、温度600℃、10分の中断アニール処理により数十μm範囲で原子層段の無い平坦界面を形成することができた。この手法を用いて作製したへき開再成長GaAs/AlGaAs(110)量子井戸、T型GaAs量子細線からの発光を顕微分光測定し、これまでより線幅が約一桁も狭い発光スペクトを観測した。また、空間分布測定から空間的にも均一な構造が形成されていることを確認した。この結果は、面内界面ゆらぎが無く空間均一性のよい高品質(110)量子井戸、量子細線の作製の可能性を示唆している。
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