研究概要 |
GaAs微細加工探針を用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡(SP-STM)の実現を目的として,本年度は主にGaAs探針の時間分解フォトルミネッセンス(TR-PL)測定を試み,励起電子の寿命およびスピン緩和時間の評価を行った。 まずGaAs基板上に作製した高さ約5μmのGaAs微小探針からのTR-PLスペクトルを得るために,2段階異方性エッチングとAu薄膜蒸着を組み合わせた作製方法を検討し,GaAs探針周辺をAu薄膜で覆った構造を作製した。GaAs探針以外の領域からの発光の影響を数%程度に抑制することができ,円偏光励起したGaAs探針からのPLを左右の円偏光成分に分離し,それぞれのピコ秒TR-PLスペクトルを得ることができた。室温でのTR-PLスペクトルにより,励起電子の寿命とスピン緩和時間を解析した結果,平均の寿命時間は約92psec,スピン緩和時間は約85psecという値を得ることができた。寿命時間は探針構造のない通常のGaAs基盤に比べて約20psecも短かったが,スピン緩和時間はほぼ同程度であり,その結果,定常状態での電子スピン偏極率は探針のない基板よりも探針構造の方が約20%も高くなっていることが示唆された。今回作製したGaAs微細加工探針は、スピン偏極STMへの応用において有効な構造であることを示すことができたが,今後はGaAs探針から放出されたスピン偏極電子に関する知見を得ることが重要な課題である。
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