研究概要 |
真空アーク蒸着法は,真空アーク陰極点から発生する高エネルギーの金属あるいは非金属イオンを雰囲気ガスと反応させて薄膜を形成する手法である。スパッタリング法に較べ,成膜速度が速い,基板との密着性が良い,装置が安価である,などの利点がある。しかしながら,この手法では陰極材料のドロップレットが発生するため,電子材料薄膜を創製する場合にはこのドロップレットを除去しなければならないという課題がある。ドロップレットの発生を抑制するためには,陰極点を定期的に冷却すればよい。そこで,本研究では陰極点を定期的に減衰させるため、従来直流電流を利用していた放電電流に連続パルス電流を用いた手法を検討する。 初年度は,連続パルス電流を用いた場合に関し,パルス電流,ベース電流,デューティ比,圧力を変化させ,アーク放電が安定して長時間持続可能な運転条件を明らかにした。陰極にはTi,雰囲気ガスにはN_2を用い,TiN膜を作製する条件で検討した結果,以下のことがわかった。 (1)直流アーク放電を連続して維持できる放電持続最低電流は,圧力が低い場合には高く,圧力が高い場合には低くなる傾向にある。 (2)パルスアークを連続して持続させるには,ベース電流が一定の場合,パルス周波数が低いときにはパルスデューティ比を高くしなければならず,デューティ比が低いときには周波数を増加させなければならない。 (3)パルスアークの電極間プラズマの状態はパルス電流に追従する。 今後、パルスアーク法で薄膜を形成し,生成膜上のドロップレットの数を調べ,本手法の有効性を明らかにする予定である。
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