研究概要 |
本年度は(1)純度の異なるMOCVD原料によるPb(Zr,Ti)O_3(PZT)薄膜の作製及び各種不純物が電気的特性に与える影響の調査を行うとともに,(2)高純度PZT薄膜作製プロセスの開発とその特性評価のための予備的研究を行い,以下のような知見を得た。 (1)純度が99.9%と99.999%のZr(O-t-C_4H_9)_4及びTi(O-i-C_3H_7)_4をMOCVD原料として用いてPZT薄膜を作製し,電気的特性に原料純度が及ぼす影響を調べた。その結果,純度99.999%のMOCVD原料を用いて作製したPZT薄膜の方が比誘電率や残留分極値が大きく,リーク電流や疲労現象も少ないなどの良好な電気的特性を示すことがわかった。また,高純度と低純度のMOCVD原料中で含有量が大きく異なる不純物として,Al,Ca,Fe,Co及びCuが検出された。一方,Si基板上に直接PZT薄膜を作製し,過渡容量分光法により不純物元素が半導体に及ぼす影響を調べた。その結果,PZT/Si界面に多量の界面準位とPZT構成元素に起因すると思われるバルク準位が存在することが明らかとなったが,特定の不純物元素に起因するバルク準位は検出されなかった。 (2)(1)で得られた知見にもとづき,高純度原料を用いてSrRuO_3/SrTiO_3単結晶基板上に作製した高品質エピタキシャルPZT薄膜の電気的特性の評価を行った。その結果,高品質エピタキシャルPZT薄膜では,膜厚27nmという非常に薄いものでも強誘電性を示すD-Eヒステリシスループが得られ,MOCVD原料の高純度化及び単結晶基板を用いたエピタキシャル成長により,膜厚の減少に伴う特性劣化が抑制できることが明らかになった。また,透過型電子顕微鏡によるPZT薄膜の成長初期過程の観察を行ったところ,連続膜になる前の微小な島状結晶が90°ドメイン構造を持ち,強誘電性を持つ可態性があることを明らかにした。
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