大規模な半導体シミュレーションを行うことを目的とした高性能並列計算機システムを低コストで実現し、実際にそれを利用した計算を行ってその有用性を実証した。安価なパーソナルコンピュータをイーサネット結合し、16個のCPUを並列接続したクラスタ計算機を構築した。本年度のシミュレーションの成果は以下の通りである。 (1)シリコン半導体中の高エネルギーホールの挙動シミュレーションと散乱モデル検証 半導体中のキャリア輸送を高精度にシミュレートするため以前から開発してきたフルバンドモンテカルロシミュレータを用いて、シリコン中のインパクトイオン化に対する量子生成功率を計算した。実験値との比較により、従来不確定であったホールの散乱モデルを検証することができた。並列化言語MPIを用いて既存のプログラムコードを改良することで、実行速度を10倍以上高速化することに成功した。 (2)キャリア間のクーロン相互作用を分子動力学の手法で取り入れた半導体電気伝導シミュレーション 3nm以下の非常に薄いゲート酸化絶縁膜を有する次世代MOS型トランジスタを対象とした電子挙動シミュレータの開発に着手し、プロトタイプを完成させた。一般的なモンテカルロ法に加えて、キャリア間のクーロン相互作用を分子動力学の手法で取り入れることで、今後重要性が増すとされるキャリア-キャリア散乱の効果を調べることを目標としている。最初の課題として、薄いゲート酸化膜を介してチャネルとゲートのイオン化不純物電荷が相互作用する効果を調べ、膜厚2nm以下の場合にはこれが移動度低下に大きな影響を及ぼすことを示した。
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