昨年度に構築したPCクラスタを利用して、並列化分子動力学法によるLSIデバイスシミュレーションを遂行した。主な解析対象は、MOSFETのゲート空乏層中のイオン化不純物が、チャネル移動度に及ぼす影響である。ゲート酸化膜のスケーリングに伴うMOSFETチャネル移動度低下の懸念に対しては、現在産業界で活発な議論が展開されている。 標準的なアンサンブルモンテカルロ法をベースに、クーロン散乱(イオン化不純物散乱、電子-電子散乱)を分子動力学法で取り扱う電子伝導シミュレータ開発し、MOS構造における反転層電子移動度を計算した。有限サイズのシミュレーション領域を設定し、点電荷(反転層電子、基板及びゲート空乏層のイオン化不純物)を内部にばら撒く。さらに、そのレプリカを2次元周期的に無限に並べた系を想定した。この系の解析に必要な、長距離クーロンカの近似的計算法、鏡像電荷を用いた異物質界面近傍での電界計算法、を新たに提案した。 反転層移動度の実効酸化膜厚依存性をシミュレーションしたところ、通常のゲート酸化膜(SiO_2)では、膜厚2nm以下でチャネル移動度の低下が見られた。一方、高誘電率膜(HfO_2:ε=30)を使用した場合は、SiO_2換算で0.5nmまで移動度低下を抑止できることが分った。また、移動度低下の原因として、ゲート不純物による影響でチャネルポテンシャルに乱れが生じることが本質であることを示した。
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