研究概要 |
本研究では,秘密鍵暗号を用いた気密保持通信系の1つであるシャノンの暗号システムを考察の対象とし,情報スペクトル的方法と呼ばれる近年提案された情報理論の新しい視点から解析することを目的とする.具体的には,無記憶とは限らない広いクラスに属する情報源から生成される情報を暗号化して伝送する状況下において,伝送される暗号文を盗聴されても情報が漏れないという安全性の基準を満たす暗号化をするときに必要となる,暗号文と鍵のレートの下限を情報理論的な量で表すことを目標とする. 今年度の研究成果は次の通りである.まず安全性の基準を,あらかじめ与えたある定数hに対して,情報源Sおよび暗号文WがH__-(S|W)【greater than or equal】hを満たすように設定した.ここに,H__-(S|W)はWを与えたときのSの条件つきエントロピースペクトル下限と呼ばれる量である.次に,情報源Sが「強逆性」と呼ばれる性質をもつ場合に,導入した安全性の基準を満たすための暗号文および鍵のレートの下界が,それぞれH^^-(S)およびhで与えられることの簡単な証明を与えた.H^^-(S)はSのエントロピースペクトル上限と呼ばれる量で,Sをデータ圧縮するときに必要な最小の符号語長としての意味をもつ.従来のシャノンの暗号システムに関する符号化定理は,本研究の結果から容易に従う. この他の今年度の成果として,(1)一般情報源に対する最適な可変長符号の符号語長分布が,自己情報量の分布に一致することを証明した,(2)一般化された秘密鍵認証系に関する解析を行い,従来Simmonsの下界として知られる限界式の一般化を行った,ことが挙げられる.これらは一般情報源のもつ性質の特徴付けとして興味深い結果である.
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