本年度は、提案の非線形連続時間系フィルタの原理的な性能の評価を行なった。提案のフィルタでは比較器を用いた非線形処理を行なうため従来のフィルタ構成の知識を活用することが難しいことから、基礎的な検討として妨害波の除去能力を理論的に示した。 通過域内の信号成分が妨害信号に比べて小さいという特徴を活用することにより、通過域内の信号成分と妨害信号が同時に入力されたとき、比較器の出力である矩形波を近似式で表すことができ周波数領域で解析できる。複雑な解析の結果からまず、比較器が非線形な増幅回路であり、妨害波成分に対する利得は通過域信号成分に対する利得の2倍であることが明らかになる。従って、提案のフィルタにより矩形波を入力信号から減算すると妨害波成分は通過域信号成分に比べ大きく減衰し、妨害波の除去に有用であることがわかる。また、評価形増幅回路である比較器における通過域信号成分および妨害波成分に対する利得はいずれも矩形波の波高値に比例し、矩形波の波高値が妨害波の波高値のπ/4倍のとき妨害波が完全に除去できることも式から導出される。 以上の結果と設計例の理想素子を用いたシミュレーションより、提案のフィルタが適切な設計により妨害波の除去に有用であることを示し、非線形フィルタの実現を目指した基礎的、理論的成果を得た。 今後は、提案の非線形フィルタを実現するために比較器のトランジスタレベルでの構成を行なうとともに、上述の成果を発表する予定である。
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