本研究では、カオスを発生する連続時間電子回路を多数結合したネットワークに見られるカオスの疑似同期現象を対象とし、発生するクラスタリング現象とそのカオス的遍歴現象などについての調査を行った。クラスタリングにより特徴付けられる多様な空間パターンの解明は、近年盛んに研究されているカオスを用いたニューラルネットワークへの情報の埋め込みに対して有効な知見を与えると考えられる。また、発生する空間パターンが時間的にランダムであるかのように変化していくカオス的遍歴現象についての調査は、電子回路のような連続時間実物理系ではまだほとんど研究されておらず、解明されていない点が多いため、ニューラルネットワークへの応用だけでなく、様々な分野での研究に貢献することが期待される。 本研究で特に詳細な調査を行った系は、連続時間系としては最も簡単である3次元自励振動カオス発生電子回路を帯状に結合したネットワークであるが、このネットワークは局所的には4つのカオス発生電子回路を1つの抵抗で結合した構造を有している。研究代表者の以前の研究で、このような結合は位相差を伴うカオス疑似同期を引き起こすことがわかっており、そのことから全ネットワークを見たとき局所的な位相差によって特徴づけられる空間パターンが生成される。しかしながら、ネットワークを大規模化し、さらに外乱を加えると、このような空間パターンに乱れが生じ、ネットワークがいくつかのサブグループに分断されたように各々のグループ内のみが同期するクラスタリング現象が発生することを明らかにすることができた。また、回路パラメータによっては、サブグループ間の境界が時間的にランダムであるかのように移り変わるクラスタのカオス的遍歴現象が発生することも確認できた。
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