インターネットに代表される計算機ネットワークや、地上系に比較して伝送距離が長距離となる衛星回線は、信号処理システムから見た場合、大きな固定遅延を有し、かつ時間遅延が変動する伝送路に見えるという性質がある。 本課題では、衛星回線にエコーキャンセラを設置する場合を想定し、未知インパルス応答が単純遅延部と主応答部で構成される場合のインパルス応答推定問題に、周波数領域の適応手法を適用する手法を提案した。提案法では、単純遅延の値が異なる場合でも、適応アルゴリズムの収束特性に影響がほとんど生じないこと・適応係数の個数は主応答部に相当する少ない個数で充分であることなどの特徴を明らかにした。 さらに、適応フィルタを用いて近似逆システムの推定を行う手法への提案法の適用についても検討を開始している。従来の時間領域のアルゴリズムを用いた推定法の場合、対象伝達関数の近似逆システムを因果性を満たす系として適応フィルタで推定するために、推定系に適切な値の固定遅延を挿入する必要があった。この固定遅延の値が適切でない場合、適応フィルタが収束しないなどの問題があることが知られている。提案法を適用した場合、固定遅延の有無は適応アルゴリズムの収束性には無関係となることを実験的に示した。提案法では、固定遅延を挿入しないことの代償として、近似逆システムのインパルス応答が円状シフトして求められるが、適応アルゴリズムのタップ数に等しい回数の円状シフト結果の中に正しい解が含まれていることが保証されている特徴がある。
|