バンクマシンの音響信号情報を用いた疲弊札の判別手法の実用性を検証するために3つの疲弊札判別手法である、(a)音響スペクトルによる疲弊札判別、(b)音響エネルギーパターンによる疲弊札判別、(c)ケプストラム分析による疲弊札判別について、本年度は次の2点に重点をおいて研究を行った。 1.大量実測データに対する判別性能検証 2.判別可能な疲弊度の多段階化 項目1を遂行するために、パーソナルコンピュータおよびA/D変換ボードを購入して紙幣音計測・分析システムを構築した。また、同システムを用いて、約2000個の紙幣音データの計測を行った。得られた実測データに上記3手法を適用して疲弊札判別実験を行い、各手法における判別性能を比較検討した。検討結果から、(b)音響エネルギーパターンおよび(c)ケプストラム分析を用いた判別手法を用いることで、実用的に十分な疲弊札判別精度を得られることが確認された。特に、判別のための計算時間、ならびに実装コストの点で、(b)音響エネルギーパターンを用いた判別手法が有利であるとの結論を得た。また、判別に用いる判別器として、階層型と競合型の2種類のニューラルネットワークを用いて判別性能の比較を行った結果、競合型ニューラルネットワークを用いた方がより高い判別能力を得られるごとが明らかとなった。 さらに、項目2の実現のための基礎実験として、紙幣の疲弊度を新札、流通札、疲弊札の3段階に設定した場合における、上記3手法の有効性の検証を行った。その結果、(c)ケプストラム分析による方法、(b)音響エネルギーパターンによる方法において、流通札と疲弊札の判別が困難となり、判別精度が低下するという問題点が明らかになった。
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