本研究の目的は大域結合電子回路網に発生するカオス的協調現象を利用した新しい通信方式を開発することにある。この一年間では、(1)シミュレーションによる大域結合電子回路網の選定、(2)ブレッドボード実験によるシステムパラメータの抽出、(3)シミュレーションモデルの修正、(4)集積化に向けた机上検討が行われた。以下に各項目の成果を簡単に報告する。 (1)ここでは、カオス的協調現象を発生できる大域結合回路網を設計し、電子回路シミュレータにより評価した。評価結果より、研究対象とする結合電子回路網を8個の位相同期ループ(PLL)結合網および8個のchua回路結合網に選定した。ただし、chua回路のインダクタンスにはアクティブインダクタンスの使用を想定している。 (2)ここでは、前項で選定した結合電子回路網が実際にカオス的協調現象を発生できることをブレッドボード実験により確認した。しかしながら、寄生容量・遅延等のシステムパラメータの影響で実験結果とシミュレーション結果の一致は決して良くなかった。 (3)ここでは、シミュレーション回路に寄生容量・遅延等のシステムパラメータをマクロ的にシミュレーションモデルに反映させることによって、実験結果をほぼ忠実に再現できるようにした。 (4)この項目は現在進行中である。ここでは、1.6μmBiCMOSトランジスタを基本にして大域結合電子回路網の設計が行われている。 来年度は、結合電子回路網の集積化を図ると共に、中・大規模大域結合電子回路網の検討を行う。
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