本年度は、昨年度の結果を受けて(1)電子回路、主に位相同期ループ(Phase-Locked Loop;PLL)を用いた結合カオスシステムの時空間欠カオスに関する実験的検討を行い、(2)結合カオスシステムの集積化を行い、(3)カオス的協調現象を用いた通信システムに適応できるカオス変調方式を提案した。以下に上記(1)〜(3)に関する成果を簡潔に述べる。 (1)8-PLL大域結合システムおよび4-PLL環状結合システムにおいてカオス的強調現象を観測し、その発生のメカニズムについて検討を行った。現在までに、PLLのように集積化可能な電子回路網におけるカオス的強調現象の観測はほとんど例がない点およびカオス的強調現象の応用への可能性の点から評価された。 (2)電気学会で行われているMulti-user Integration Chip Service/Micro Circuit System(集積回路試作サービス)を利用して4-PLL環状結合システムの集積化を行った。しかしながら、電源系統の配線の問題から所望の結果を得ることができなかった。予算の関係上、この検討は次年度に持ち越す予定である。 (3)カオス的協調現象を用いた秘匿通信システムのための新しい変調方式を提案した。現在提案の変調方式の有効性をシミュレータを用いて検証中である。来年度はこれを発展させてブレッドボード実験、集積化へ向かう予定である。 本研究成果の意義は、カオス的協調現象を用いた秘匿通信システムの開発に向けた具体的な道筋が提示できたことにあると考えている。
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