研究概要 |
近年,ディジタル画像は計測機器等の発展により,様々な計測データの解析に用いられつつある.本研究では計測データの一種である,半導体表面のSTM(走査型トンネル顕微鏡:Scanning Tunneling Microscopy)画像の符号化に関する検討を行う.静止画像符号化の国際標準JPEG(Joint Photographic experts Group)は自然画像を対象とし,画素値は緩やかに変化すると仮定している.しかし,STM画像は通常の画像と統計的性質が異なるため,JPEGでは圧縮効率の低下が予測される.本年度はSTM画像の可逆符号化に関する検討を行った.自然画像では,画素間距離が最も近い直上或いは直左に位置する画素との相関が高いと云われているため,JPEGの可逆モードでは,直上及び直左の画素を用いて符号化すべき画素を予測し,その予測誤差をエントロピー符号化している.しかし,STM画像は原子の配列に数種類の方向性がみられるため,最も相関の高い画素は直上,直左何れでもない可能性が高い.従って,STM画像の性質を考慮し,斜め方向の画素を用いた適応予測を提案した.数種類のSTM画像およびITE(The Institute of Television Engineering of Japan)標準画像に対して符号化シミュレーションを行った結果,直上,直左の画素を用いる適応予測に比べ,符号量はSTM画像で平均2%程度減少し,ITE標準画像ではほぼ同等の結果となった.更に,JPEGの非可逆モードで採用されているDCT(Discrete Cosine Transform)係数の分布に関して考察した.KS(Kolmogorov-Smirnov)統計量を測定した結果,近似に用いる関数として,自然画像および約4,000本もの走査線を有する超高精細画像ではラプラス分布が適切であるのに対し,STM画像では正規分布が適切との結果を得た.
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