本研究は、カオス現象の工学的応用に関する最重要テーマとして研究されてきた「カオス制御」の手法を、微分方程式および最適化問題の求解などの数値解析手法に応用することを目的として、2年計画で遂行している。平成11年度は、カオス制御の手法の一つである「遅延フィードバック法」を非線形常微分方程式の不安定周期軌道の探索に利用する手法の開発に重点をおき研究を進め、以下に要約するような成果を得た。 (1)遅延フィードバック制御の持つ基本的性質を検討し、その拡張版である「拡張遅延フィードバック」を一般化すると、最近提案された「動的遅延フィードバック」の一種となり、遅延フィードバックの最大の欠点である「奇数条件による制約」を解消できることを証明した。これにより、遅延フィードバックの性質がより明らかになり、その改良の指針が与えられた。 (2)遅延フィードバックを常微分方程式の不安定周期軌道の探索に利用するための理論的考察を行なった。このような探索において常套手段として従来用いられている「ニュートン法」と遅延フィードバック法との比較を行ない、計算量の観点からは遅延フィードバック法が優れ、局所収束性ではニュートン法が勝っていることを明らかにした。これにより、不安定周期軌道探索手法としての遅延フィードバック法の位置付けが明確になった。 (3)上記(2)の理論的考察では解明困難な大域収束性に関して数値解析的検討を行なった。典型的なカオスシステムであるダフィング方程式系を対象とし、二ュートン法と遅延フィードバック法の大域収束性を比較した結果、遅延フィードバック法の優位性を示唆するデータを得た。これにより、不安定周期軌道探索手法としての遅延フィードバック法の適用に関して重要な知見と見通しを得ることができた。
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