初年度である平成11年度は心理物理実験を通して、眼球運動を伴う上肢の追従運動においてその運動発現タイミングのデータを収集した。まず、人間が両眼視や上肢運動によって空間位置を捉らえる際に用いている生体信号を同定し、実験パラメータを整理するために空間を肩の高さの水平面上に限定した実験装置を準備した。視覚提示方法として、コンピュータで作成した画像をプロジェクタを用いてリアプロジェクションシートに投影し、シートに投影された画像を鏡で反射させることによって、実際に腕を動かすデジタイザ面と、鏡に映った画像面が同一平面となるように構成した。腕の運動はデジタイザ上の2次元平面内で行い、手先の位置を計測した。この実験系による指標追従課題実験の結果、眼球運動に見られる2つの運動制御戦略である跳躍性運動と追従性運動が、上視運動にも見られること、ただし上肢の慣性質量の大きさのために精度の高い解析が困難であることが明らかになった。そこで上肢運動に際して上腕二頭筋・三頭筋の筋電を計測し、この活動度から上肢の慣性質量に影響されない運動指令情報を得ることで上記の2つの制御戦略モードの存在を明らかにした。中でも跳躍性運動の発現タイミングについては眼球と上肢の間に完全な従属性はないものの、双方で同時に生じる場合の時間関係には一定の時間関係が見られた。また、各運動成分に関する追従制御系のモデルを構築し、信号間の座標変換とそのJacobian成分の特徴について解析を行い、運動発現機構の構成に関わる知見を得た。
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