本年度は、線構造の抽出と理解に関する基本的な検討を中心に行った。特に、高精度の線の構造検出を実現するために、線集中ベクトル場モデルから導き出せるベクトル集中線に関して、その推定法と性質を重点的に検討した。 まず、従来あまり検討のなされていなかったGAWHT(Grandient Angle Weighted Transform)による線集中ベクトル場の推定法における各パラメータ間の関係について、理論的な検討を行った。この結果、ベクトル集中線の推定がこの手法を拡張することで実現できることを確認し、GAWHTによるベクトル集中線推定法を考案した。この手法を乳房および腹部のX線像に適用して確認したところ、線のコントラストや太さに関係なく、その構造線の存在を極めて高精度に検出できることを確認した。また、線集中ベクトル場モデルに基づく線の進行方向の推定法を、線集中ベクトル場推定法およびベクトル集中線推定法に適用したところ、両者ともに良好な方向検出が可能であった。 また、交差の存在する画像について、このベクトル集中線推定法を検討したところ、対象とする線幅の2倍以上をフィルタ長とするという、比較的小さなスケールかつ緩やかな条件を加えるだけで、25倍という大きなコントラスト差を持つ線の交差についても、それぞれの構造線の存在と方向を適切に検出できることがわかった。この条件を基に、方向を第3軸とする空間を構築し、これをオブジェクト空間表現と名づけた。これを、腹部のX線像に対して適用したところ、実画像のおいても十分な構造線の存在と方向の検出が可能であることがわかった。さらに、この空間で「最も長い線」という非常に簡単な条件だけで、74%の症例で胃の領域境界線が検出でき、複雑な臓器の計算機による理解への可能性が示された。
|