洪水流による高水敷への物質輸送特性を明らかにすることを目的として、本年度は多摩川中流部(東京都青梅市)を対象とし、1999年夏期の出水の前後に高水敷上植生分布、高水敷表層土壌(本研究では表層より10cmと定義)の粒度分布、土壌中の栄養塩・有機物含有量、土壌の各粒径成分別の栄養塩・有機物の含有量の変化を調査した。 出水前後の植生分布を比較すると、高水敷上の多くの地点で植生の流出や枯死が生じており、その傾向は河道の湾曲の外岸側に位置する左岸側高水敷で強く見られた。このことは、外岸側に位置する左岸側高水敷で出水時に大きな掃流力が生じ、微細土砂の流出とともに植生の流出が生じたものと思われる。出水後の高水敷表層土壌の粒度分布は2mm程度以下の細粒分が流出し粗粒化する傾向が見られた。土壌の各粒径別のリン量は粒径が小さい成分ほど多く含有する傾向が見られ、微細土砂へ吸着した形態でのリンの存在が示唆される。窒素に関しては、全体的にはリンと同様に細粒成分ほど含有量が高くなる傾向が見られるが、同時に土壌中の有機物量に対応した変動が見られた。このことから、高水敷上の窒素総量には有機態窒素の寄与が大きいことが明らかになった。出水前後の2mm以下の細粒土壌中の窒素・リン量はともに低下しており、今回の観測された出水によって栄養塩含有率が低い土壌が高水敷上に輸送されたことが分かった。出水によって粗粒化すること、および細粒成分自体の栄養塩含有量が出水により低下したことによって、高水敷表層土壌中の単位面積当たりの窒素・リン量は出水後に低下した。
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