本研究では、自然に近い河川本川から取水して段階的に水位を調節し安定化させながら人にもっとも身近な空間までその水を引き込んでゆく、つまり「人が水に近づく」という従来の思想から「人に水を近づける」という発想の転換により、新たなコンセプトによる河川空間の秩序形成とアメニティ利用の提案を目的とする。 今年度の研究では、<本川>と<派川>(人工河川)との関係に着目したネットワーク構造の調査を実施した。具体的には、京都・鴨川を本川とする派川である明神川、泉川、みそそぎ川、高瀬川、滋賀県琵琶湖より取水する琵琶湖疎水水路網、更に滋賀県大津市坂本町・大宮川を取水源として発達した水路網を調査対象とし、ネットワーク構造の調査を行った。その結果、以下の結論を導出した;1)<本川-派川>系のネットワーク構造は段階的な構造を共通して持つ。この断層構造は水位の調節機能の存在によって段階的に構成されていると言える。また、そこには自然の水(wild nature)を段階的に水位調節することで安定化させ、人間に飼い慣らされた水(domestic nature)を人の側に近づけ楽しもうとする段階的な意図、自然と人間との段階的な作法秩序が推察される。2)階層的な構造を持つ疏水の各段階の景観を把握し、それにより疏水の各段階での遣水的利用のディテールを把握した。3)水路のネットワーク構造を「分岐」と「勾配(高低差)に着目して把握し、地形を利用した水路の線形・分岐・勾配の関係を明らかにし、それによって多様な水景が創出されることを示した。
|