ケーブルは引張力には抵抗するが、圧縮力には抵抗しない構造要素であり、このような力学系は片側応力系と呼ばれる。動的挙動においては、ケーブルの緊張・弛緩現象によってもたらされる非線形振動とその影響が問題となる。平成11年度においては、大きく分けて、このような力学系の振動を扱う数値解析手法の検討と、単純な力学モデルに基づく基礎的な挙動分析の2つの項目について研究を実施した。数値解析手法に関しては、非線形振動の性質を議論する際において重要となる定常振動、すなわち非線形振動方程式の周期解を求めるための数値解析手法について検討を行い、問題を時間領域における境界値問題として積分方程式の形式で定式化する解法の適用を試みた。これにより、提案された手法では、仮定される初期波形の設定により、極めて高次の高調波振動の解を容易に求めることができ、さらに、弧長法を使って連続する解を順次求めていくことができるなど、一般の非線形境界値問題の数値解析で用いられている計算技法を適用する可能性があることを明らかにした。また、この方法を用いて、ケーブルによる懸垂物を想定した1自由度質点系の周期解を求め、ケーブルの弛緩現象の生ずる領域において極めて多くの高調波振動が生起することを、詳細な数値解によって提示した。一方、ケーブルと骨組を組み合わせた構造システムに関する基礎的検討として、張弦梁構造に着目し、梁要素とケーブル要素から構成される張弦梁モデルの時刻歴応答解析を行った。その結果、ケーブルの弛緩現象によって、ほぼ完全に剛性を失ってしまう懸垂物とは異なり、骨組部材を組み合わせた構造システムにおいては、ケーブルの弛緩現象による影響は比較的軽微に留められる可能性があることが示唆された。
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