研究概要 |
室内の音響特性をよりよくする目的で、音響空間における壁面のディテールとして様々な形状の拡散体が設置され、またホール形状によっては空中に浮雲と呼ばれる不連続反射板が吊られることがある。拡散体に関しては、その単体での音波散乱性能に関して実験および数値解析による検討が多く行われ、その形状および寸法関係に関する設計チャートが提案されているものの、実際の音響設計に際しては明確な指針がなく、音響設計に際して曖昧な提案をせざるを得ないのが現状である。浮雲に関しては、設計指針はさらに少なく、不連続性に起因する周波数特性の乱れが指摘されているが定量的な検討は行われていない。ホールにおける壁面拡散体、浮雲などの反射板を有効に活用した音響設計を行うためには、「壁面拡散体および浮雲反射板等の音響反射板が室内音楽全体に与える音響効果」に着目した研究が必要である。このような目的のために、今年度は次の検討を行った。 1.有限差分法によるホール空間の音場解析 本研究では、音響拡散・反射体の効果を調べるための方法として、(1)実験(縮尺模型実験)による検討、(2)数値解析による検討を2本柱としている。数値解析に関しては、これまでに新たな音場解析法として有限差分法の定式化を行い、実験室実験によってその理論的妥当性を検証してきているが、本年度、まず最初に実ホール空間での測定結果と計算結果の比較を行い、ある程度周波数範囲は限られるものの、有限差分法が実ホール空間においても有効に適用可能であることを確認した。 2.拡散・反射体の音響効果に関する数値解析 上記で検討した解析手法を用いて、拡散・反射体の音響効果について基礎的な検討を行った。拡散体については、種々の室形状および拡散体形状の組み合わせ(バリエーション)について室の拡散性に対する音響効果を調べ、(1)長方形平面など中心性をもたない室形状に対してはポリシリンダ型の効果が高く、一般的には拡散体と認識されていない柱型もある程度の音響拡散効果を望めること、(2)扇形、楕円形など中心性が強い室形に対しては、柱型の効果は低く、屏風折れ型の効果が高いこと、などを確認した。また、浮雲反射体の音響効果についても数値計算による検討を行い、音波散乱性能について可視化手法を用いた検討を行った。 3.拡散体の音響効果に関する模型実験 上記数値解析と並行して、模型実験によって拡散体の音波散乱性能に関して基礎的検討を行った。本実験では、特に音波入射角度に着目して検討したが、入射角度によって拡散性能が大きく変化することが分かった。特に柱型に着目すると、垂直に近い入射角度ではあまり効果が期待できないが、斜め入射の条件下では最も拡散性能が高いポリシリンダ型に比較しても遜色ない拡散効果が得られることが分かった。 上記2,3の検討結果より、室形状から推測される音波入射角度確率と、拡散体の入射角度別散乱性能の2つを共に考慮した上で適切な拡散体を選択することにより、より良い拡散効果を持たせることができるとの知見が得られた。
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