研究概要 |
MTFの理論に基づき音声信号を変調雑音信号でモデル化し観測点で統計的にその変化を数学的に解明することにより,室内インパルス応答を測定することなく残響波形から音源波形を回復する計算式を導出した.すなわち,観測された残響波形のパワーエンベロープ(2乗包絡線)は,原波形と室内インパルス応答の各パワーエンベロープのたたみ込みによって表わされることを示した.さらに原波形のパワーエンベロープは,観測信号のパワーエンベロープに対して室内インパルス応答パワーエンベロープの逆フィルタリングによって復元できることを示した.従来の研究では,正確な室内インパルス応答がわからなければ観測信号(残響波形)から音源信号を推定することが困難であったが,導出した計算式及び展開近似式により新しい音源回復手法を見出せた.このように,室内環境の変化に対応した室内伝達関数の先天的追随予測手法を,申請者は"パワーエンベロープ逆フィルタリング処理"として提案し,音響エコー経路の本質的な特徴と統計的な信号逆フィルタ処理を結び付ける理論を構築した. 理論構築した音声モデル,すなわち変調雑音信号の回復実験では,残響時間(a)0.32秒,(b)0.54秒,(c)1.08秒でそれぞれ観測した残響波形が本手法によって,音源信号の包絡線情報をいずれの条件下でも成果に回復できた. 実音声を音源信号にした回復実験では,残響音声で原音に比べ見かけ上,無音区間の減少や,明瞭度の低下が確認されたが,回復音声では無音区間や子音区間が著しく回復し,改善度も約3dBとなった.しかし,局所的なスペクトル歪みや,理論構築モデルと音声の違い,などの問題のため,試聴実験においてもパルス的な雑音や白色性の高い雑音が確認された.
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