本研究は、特に温暖地の密集市街地における建築とその隣棟空間の計画・設計を行なう際に、夏季の自然冷房効果を考慮できるようなデザイン指針や手法の提案を目標としており、その概念的方向づけ、説明理論として熱力学のエクセルギー概念を適用するものである。 本年度は、複数の自然冷房手法が採用された東京の2棟の戸建て住宅を対象に、夏季の温熱環境実測を実施した。エクセルギー概念に基づく検討に先立ち、室内外の温熱環境の把握と熱流の解析(エネルギー評価)を行なった。その結果、西日遮蔽による冷房負荷の削減を目的として床下冷気通気型二重壁が用いられた住宅では、最大で20%程度の冷房負荷削減も可能なことが確認できたが、強制通気のために小型ファンを使用した場合には、二重壁による冷房負荷削減効果がファンの使用電力で相殺された。自然冷房のために補助的なファンやポンプが設けられているシステムは多く、日射や電力という異なる質のエネルギー同士を比較して設計・運用をする上で、エネルギーの質を考慮できるエクセルギー解析で得られる知見が必要であると言える。また、光庭や上下換気窓に夜間換気とコンクリート床への躯体蓄冷という複合手法が採用された住宅の実測からは、冷やされた床が居住者の快適感に与える影響が床表面と人体の足の接触面におけるエクセルギーの流れと消費の大きさによって説明できることが示唆され、次年度はそうした観点から解析を進める予定である。2つの住宅とも、屋根面の緑化による遮熱の技術の有効性が確認でき、その実証データが蓄積できた。 また、室内と隣棟空間を一体とした自然冷房計画が行なわれ、緑化屋根や透水性舗装などが取り入れられた都内の中低層集合住宅についてもエクセルギーによる解析を行なうべく、1998年に実施された夏季の温熱環境実測のデータを利用するためのデータ整理と、その内容の検討とを行なった。
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