本年度は阪神間の郊外住宅地のうち、兵庫県宝塚市に位置する「雲雀丘住宅地」について史料収集・調査を行った。大正4年に開かれた「雲雀丘住宅地」は、近代における阪神間の代表的な郊外住宅地のひとつであり、その開発において、自然環境との関わりが非常に重視された地域である。当住宅地の当初の開発計画と手法を知る史料が、宝塚市役所西谷分室に保存されていることを確認し、それらの調査と複写を8月に行った。開発を知る手がかりとなったのは、その大半が砂防指定地内での作業・開発申請書であった。文書の量は綴りで7冊程度であった。その後これらの史料を整理し、個々の文書の分析を進めた。分析の結果、自然環境をできる限り破壊しない開発方針、禿地に植林を行う計画、傾斜地であることを考慮した法面の補強などが明らかになった。西谷分室保管の行政文書分析と平行して、住民への聞き取りと個人蔵の史料の提供依頼、住宅の調査を行った。聞き取りは調査は、たどれる限り古い時期にここに住んでいた住人を5人程度ピックアップして面接形式で実施した。この調査から、昭和初期から戦後にかけての住宅地の様子や自然環境、暮らしぶりなどに関するデータを得ることができた。個人蔵の史料については、古写真を中心に200点あまりの提供を受け、これらから開発間もない頃の景観や生活などがヴィジュアルに捉えることが可能となった。住宅の調査に関しては、最初に開発された地域の住宅について実測を1軒、写真撮影を2軒行った。
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