IVa-VIII B2型金属間化合物CoTiは、規則化エネルギが高いことは知られているが、原子の移動を伴う諸現象において重要な役割を果たす空孔についての情報は未だ十分には得られていない。本研究においては、CoTi中の拡散挙動を理解する上で重要な構造欠陥、空孔形成エンタルピーに関する情報を得るために、陽電子寿命法を用いて下記の実験を行った。陽電子寿命法は、ppmオーダーの微量な空孔でも敏感に検出できる優れた特徴を有しているので利用した。 アーク溶解炉を用いてスポンジチタン(99.88%)と電解コバルト(99.9%)からCo-rich CoTiを作製し、1323K、259.2ksで均質化焼鈍を行った後、室温まで炉冷した。得られた試料の陽電子寿命は短く、構造空孔は存在していないと推定できた。次に、同じ試料を373から1373Kまでの様々な温度で焼鈍後、各温度から氷水中に焼き入れ、陽電子寿命を測定した。約600K以上の温度から焼き入れた試料の陽電子寿命に上昇が見られ、熱平衡空孔の凍結が確認できた。この温度は、0.4T_M(T_M:融点)に相当し、純金属の場合(0.6T_M)に比べて極めて低い。この結果は、Co-rich CoTi中の空孔形成エンタルピーが、その融点から予想される値に比べて、著しく小さい事を示唆している。 さらに、高温で焼鈍後、氷水中に焼き入れすることにより、空孔を導入した試料を、低温で焼鈍、回復する過程を陽電子寿命法で調べることにより、空孔移動のエネルギーについても知見が得られることを確認できた。今後、上記実験をCoTi中の拡散実験とともに行うことにより、B2型金属間化合物CoTi中の拡散の活性化エネルギと空孔形成・移動エネルギとの相関を明らかにできるものと考えている。
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