非対称ペア型ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて高圧力を加えた試料からX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルを測定する技法を開発した。この測定法では、片側のアンビルに0.8mm厚の薄型ダイヤモンドを用い、これを貫いてX線を試料に入射することでダイヤモンドによるX線の吸収を低減した。また、入射X線と垂直方向に放出される蛍光X線をガスケットを通して半導体検出器で計測することで、ダイヤモンドによる入射X線の散乱の影響を回避する独自の光学配置を採用した。さらに、外形と試料孔を放電加工により高い加工精度で成形したベリリウム製ガスケットおよびメタ・エタ混合液(圧力媒体)を用いることで、圧力分布を低減しつつ最大8GPaまでの種々の高圧力を発生することに成功した。 上記の測定法により、β-Ce_3Al合金相について種々の高圧下におけるCeL_<III>-XANESスペクトルを実測した。その結果、少なくとも8GPaまでの圧力範囲ではCe^<3+>(4f^1)に対応する吸収ピークしか観察されず、β-Ce_3Al合金相中のCeはかなりの高圧まで局在した4f電子状態を保つことが明らかとなった。著者らが別途行っている高圧電気抵抗測定の結果では、β-Ce_3Al合金相はわずかに1GPa程度圧力を加えただけで電気抵抗が温度低下と共に増大する異常物性(高密度近藤効果)が現れることを見出している。本研究の結果は、電子転移に伴う価数変化により4f電子濃度を低減させなくても、高密度の4f電子スピンが孤立して高密度近藤効果が発現する可能性を示唆しており、極めて興味深い結果が得られた。
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