透明電導性酸化物ITO(Tin doped Indium Oxide)において、SnはInサイトに置換固溶するといわれるが、置換したSn周りの酸素は、置換に伴い緩和されなければならない。さらに、Snの置換に伴い、格子中の電荷のバランスを補うために、格子間に酸素が取り込まれる。一方スパッタリングにより作製されるITO薄膜は、その製膜条件により、結晶の配向性やSnの取り込み量が異なることが知られている。本研究では、そのようなSnドーピングによる緩和構造を基に、ITO中のSnのドーピングにともなう構造変化を分子動力学法シミュレーションにより調べ、電気伝導度とSnの固溶量・過剰酸素の取り込み量などの実験データと、本研究で得られたシミュレーション結果を比較することにより、より高い電気伝導性を有するITOの構造を検討することが研究の目的である。本年度は、分子動力学シミュレーションの最も重要なポイントとなるポテンシャルの検討を行った。ポテンシャルの型は、酸化物で最も一般的なBorn-Mayer型2体ポテンシャルを用いた。本研究では、構造情報を最も重要視するため、酸化インジウムの複雑な構造をほぼ完全に再現するようなポテンシャルを探査した。同様に、Snのポテンシャルについては酸化スズの結晶構造を用いた。実際には、NTVアンサンブルで、系の圧力が常圧(1atm)になるようなポテンシャルを調査し、得られたポテンシャルを用いてNTPアンサンブルで実際のシミュレーションの条件での結果、構造の再現性が認められた。そこで、それらのポテンシャルセットを用いて、ITOのシミュレーションを行った。まず、分子動力学に用いるITOの基本セルを構築した。21n^<3+>=2Sn^<4+>+O^<2->と考え、格子内の電荷の中性を考えると、2個のInと2個のSnが置換すると、酸素1個が過剰に格子間に取り込まれる。このようなセルを構築し、分子動力学シミュレーションを行い、Snの置換位置や、格子間酸素の挙動を調べ、酸素6配位のSnは、結晶学で言うb-siteが安定で、置換により格子内に取り込まれた酸素を配位し7配位になったSnは、d-siteが安定であるという結果が得られた。
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