研究概要 |
配向性の高いY2O3添加ZrO2柱状薄膜(以下YSZ薄膜)ほど柱状粒界における高いイオン伝導率を示すことを見出した.しかし配向性と伝導率の関係を見出すためには柱状粒界構造を更に詳しく検討する必要がある.本研究では,配向度の異なる柱状構造をもつYSZ薄膜の柱状粒界構造を断面TEM観察によって解析し,YSZ柱状薄膜の配向度がイオン伝導特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする. 試料にはMOCVD法で(102)Al2O3,(100)MgO,及びSiO2ガラス基板上に合成した5.9mol%Y2O3添加ZrO2薄膜を用いた.薄膜の配向性はX線極点図形によって調べた.断面観察用試料は通常の張り合わせ法によりイオンミリングを用いて薄片化し,透過型電子顕微鏡(200kV)を使用して観察した. MgO基板上の膜は幅20〜30nmの柱状粒内での配向が揃っている.また隣接する柱状粒間には第2相が存在せず,柱状粒界を挟んだ格子の傾斜が3°以下と小傾角粒界になっており,結晶面が連続して格子の整合性が高い.Al2O3基板上の膜の場合,粒内の配向性は成膜温度に依存して大きく変化し,600℃で成膜した試料では,MgOに匹敵する高整合性の柱状構造を形成し,柱状粒界を挟んだ格子の傾斜が5°程度であった.しかし400℃で成膜した試料では,柱状構造が形成されず,約10nmの粒径の微結晶からなる多結晶体であった.以上の柱状粒の配向性はXRD極点図形から算出した半価幅の値とほぼ一致しており,試料を代表する構造であるといえる.半価幅に対してイオン伝導率及びイオン伝導の見かけの活性化エネルギーをプロットすると,半価幅が小さく配向度の高いYSZ薄膜ほど高いイオン伝導率かつ低い活性化エネルギーを示した. 一方,SiO2ガラス基板上に成膜したYSZ薄膜は上記に薄膜とは異なって,面内配向性のない(001)一軸配向性の柱状構造を示すことがX線極点図形とTEM観察から明らかになった.MgOやAl2O3基板上のYSZ薄膜と比較すると,SiO2ガラス基板上のYSZ薄膜はイオン伝導率が低く,見かけの活性化エネルギーが高いことが明らかとなった.HRTEM観察の結果,個々の柱状粒の間の柱状粒界は非晶質のコントラストを示しており,柱状粒界部には非晶質第2層の存在が明らかになった.2nmのナノプローブによるTEM-EDS分析の結果から,この第2層は主にSiO2相からできていることが明らかとなった. 以上の様にYSZ柱状薄膜において,(1)粒界を挟んだ柱状粒の格子の整合性が高く,膜厚及び面内方向への方位の乱れが小さいこと,(2)粒界部に異種第2相が存在しないこと,以上の2点が高いイオン伝導率を示すための必要条件であることが明らかになった.以上の指針に基づき,YSZ薄膜における粒界伝導の高速化が可能になる.
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