本研究では難黒鉛化性炭素前駆体(フルオランセン系COPNA樹脂)の熱処理に伴う構造変化を検討した。本樹脂は無定形炭素を生成し、3000℃の高温処理でもアモルファスな結晶構造のみを与える。しかし、炭素前駆体生成後(600℃処理後)、平均粒径10μm以下に粉砕するとその炭素化黒鉛化過程は大きく変化することが見出され、X線回折中に2000℃付近からアモルファスなピークとともに結晶性のピークが現れこのピークは更なる熱処理でより強い回折を示し、多相黒鉛化を起こすことが確認された。これは炭素化過程での粉砕処理により、単身の原料からアモルファスな内部構造と結晶性の外部構造とを有する傾斜炭素材の生成を示唆している。これらについてリチウムイオン二次電池負極特性を測定したところ、いずれも低温(600〜1200℃)で黒鉛を上まわる高い充放電特性を示し、特に1000℃処理物が電位の安定性等に優れていることが分かった。この負極特性についても粉砕処理の影響が顕著にみられ、粉砕処理により全容量は20%程度増加し、特に低電位での容量増加が顕著で充放電特性の安定性が大きく向上することを明らかにした。この際、X線回折等による解析では明らかな構造の違いは観測されていないが、黒鉛化性への影響を考えると、1000℃の時点ですでに内部と表面での傾斜化が進んでいることが考えられる。 一方、易黒鉛化性炭素についても粉砕処理の結晶性への影響を検討した。粉砕処理を行うと、その後の結晶性にこれまで観測されていない新しい挙動(c軸方向の結晶子の増加)が確認された。負極特性(低温処理物)は全容量が10%程度増加するが、いずれの電位でも一様に増加し、難黒鉛化性炭素とは異なる挙動を示した。c軸方向の結晶子の増加はLiの層間挿入量を向上させる可能性を持っており、高温処理により電極特性の向上の可能性を含んでいる。
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