研究実施計画に基づいて以下の研究を行い、それぞれ重要な成果をおさめている。 まず、設備備品として購入したTEM試料作製用高精度カッターを用いて、Ti_<50>Ni_<48>Fe_2合金の良質な電子顕微鏡試料を作製し、格子変調の精密評価に使用できるサンプルを得ることに成功した。その上で、新しく開発されたオメガ型エネルギーフィルター(既存)を用いて電子回折図形の精密測定を行い、母相変調構造に対する詳しい解析を実施した。ここでは、従来弱い散漫散乱の解析を阻んでいた電子回折図形上の強いバックグラウンドをエネルギーフィルターを使って除去し、散漫散乱の強度分布やピーク位置の定量解析を可能とした。その結果、母相で観察される散漫散乱は逆空間上非整合な位置に存在し、且つその整合位置からのズレは温度ともに変化するという性質を確認できた。この特徴は、変態完了後のR相で観察されるものと全く異なっている。また、母相散漫散乱は、半値幅や強度の点からもR相の超格子とは性質が異なるほか、前者は逆空間上原点を通るライン上には強度を与えないが後者ではこれが観測されるという、消滅則の点でも本質的な違いがあることがわかった。以上の点から、変態前の母相で生じるものは、変態後に生成するR相とは異なったものであるという結論を導くことができた。一方、本研究では、この様な母相における変調構造は実空間でどう見えるかという極めて本質的なことも、散漫散乱を用いた暗視野像の観察により評価を行っている。その結果、変調を受けた領域は5nm以下の微細なドメイン状に存在すること、また、それらドメインには変調の方向が異なるバリアントが存在することが明らかとなった。
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