平成12年度の研究成果は以下の通りである。 EELSの原理を応用したエネルギーフィルター法を駆使して、電子顕微鏡像や電子回折図形の強いバックグラウンドを与える非弾性散乱成分の除去を行った。その結果、マルテンサイト変態(R相変態)に先立って生じるドメイン状の組織に対して、これまでにない精密な解析を実施することがでした。まず、波数ベクトルの異なる散漫散乱を用いて暗視野像を結像することにより、これらドメインが{110}面に関する横波型格子変調によって生じることを示し、その構造が変態後のR相の原子配列と完全に対応するものでないことを示した。続いて電子顕微鏡内で試料を冷却し、上記の暗視野像のその場観察を行った。これによって、変態点に近づくにつれて観察されるドメインの数が増えるほか、ドメインのサイズ自身も僅かに増加するという現象を見出すとともに、冷却により散漫散乱の強度が増すという効果をうまく説明することができた。 一方、このような前駆現象の段階からR相が生成する様子を初めてナノメータスケールで観察することができた。具体的には、超格子反射が逆空間の整合位置に現れる温度で、4〜8nm程度のR相の核が母相中あちこちに生成し、それらが僅かな冷却によって著しい成長を示すことを見出した。今回のR相変態に対する動的観察では、R相の核は転位や結晶粒界などの周辺だけに生じるのではなく、これら特定の格子欠陥が無い場所にも多数生成することがわかった。以上より、前駆現象の段階で蓄積された格子歪が、R相の生成を促す重要な役割を演じているということを指摘できた。
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