研究概要 |
歯科用の低貴金属合金である銀パラジウム銅金合金について、種々の熱処理を施し、それらの引張特性、静的破壊靭性、動的破壊靭性、大気中での疲労特性、人工だ液中での疲労特性および人工だ液中での摩擦磨耗特性とミクロ組織との関係を調査した。従来の溶体化・時効処理に比べて、それより比較的低温での溶体化後空冷処理(1073Kにて3.6ksの溶体化後空冷)が優れていることを見出した。この熱処理では、静的および動的破壊靭性値、引張強度および伸びが向上するのみならず、大気および人工だ液中での疲労特性にも優れている。 ミクロ組織が上記各特性に及ぼす影響をミクロ組織を定量的に変化させて評価した。本研究では,特に力学的特性を支配すると考えられるβ相に注目し,その量を系統的に変化させて、引張特性、破壊靭性、大気および人工だ液中での疲労特性を調査した。ピーク時効までは、析出β相の体積率が増加するに従い、強度が増加し、延性は低下する。本合金の溶体化水冷材の疲労強度は、低サイクル疲労寿命領域では、溶体化温度が高いほどα_2相の固溶強化が増大するため、大きな疲労強度を示す傾向となった。これに対し、高サイクル疲労寿命領域では、溶体化温度が低いほどα_1相が析出し、このα_1相によるひずみの緩和が生じるため大きな疲労強度を示す傾向となった。α_1相は局所ひずみの緩和効果に大きく寄与するため、高サイクル疲労寿命領域での疲労強度を向上させるが、疲労強度の絶対値を向上させるには、β相の体積率も考慮することが必要であることが判明した。人工だ液中での高サイクル疲労寿命領域では、腐食環境への合金の暴露時間が長くなり、β相と母相界面が優先腐食されるためβ相の析出量が多い溶体化・時効材でこの現象が激しくなり、腐食サイトへの応力集中が大きくなるため溶体化・時効材の疲労強度が大気中の場合に比べより低下すると考えられた。
|