MoSi_2は高温材料の一候補材料として期待されている。しかし、MoSi_2単結晶は変形方位を選択すれば室温でも変形可能である一方、[001]方位の結晶は900℃以上の温度でしか変形せず、その降伏応力は他の方位と比較して数倍とはるかに大きい。この塑性異方性は{013}<331>すべりの臨界分解せん断応力(CRSS)の大きな方位依存性に起因している。以上は本研究を始めるまでに明らかであった。そこで、本研究ではこの塑性異方性の機構を明らかにすることを目的とした。何故{013}<331>すべりが[001]方位で活動しにくいのかは、おそらく1/2<331>らせん転位の転位芯の構造あるいは転位芯レベルでの転位の分解と密接に関連していると考えられる。MoSi_2の結晶構造はBCC構造を3層積み重ねて積層方向に2/3圧縮した構造をとる。従って、MoSi_2の1/2<331>らせん転位とBCC結晶の1/2<111>らせん転位の幾何学的な類似性より、我々はBCC金属で見られる1/2<111>らせん転位によるnon-Schmidな変形挙動の塑性異方性と同様な現象がMoSi_2結晶の1/2<331>らせん転位にも起こっていると推測している。本年度は、MoSi_2と同じC11_b結晶構造を有するが積層方向に膨張させた構造を有するPdZr_2に着目し、c/a軸比(MoSi_2:2.45、BCC結晶:3.00、PdZr_2:3.30)の観点から、これら関連構造を有する結晶共通に見られる塑性異方性を調べた。PdZr_2単結晶の[001]、[010]、[110]の3方位について各温度で圧縮試験を行った。その結果、MoSi_2においてhardな方位であった[001]方位では液体窒素温度でも{013}<331>すべりにより変形可能であった。一方、他の2方位での降伏応力は[001]方位より約2倍高く、他の結晶と同様に{013}<331>すべりの塑性異方性が見られた。一方、MoSi_2とPdZr_2とで全く逆の塑性異方性の傾向を示し、関連構造を有する結晶ではBCC構造の軸比であるc/a=3を境界にしてc/a軸比により塑性異方性の傾向が変化することを明らかにした。
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