本年度は、ネオジム-鉄-シリコン合金に対してバルク試料の作製を試みるとともに、ナノ結晶化組織形成と硬質磁性発現機構の解明を試みた。その結果、ネオジム-鉄二元系合金に対するシリコンの添加が非晶質形成能を向上させること、試料厚さ80μmまでのネオジム-鉄-シリコン非晶質合金が液体急冷法により作製できること、またこの非晶質合金が室温で優れた磁気的性質を示すことがわかった。試料厚さの増大もしくは得られた非晶質薄帯に適切な熱処理を加えることにより、硬質磁性を改善させることができる。ネオジム-鉄-シリコン非晶質合金の硬質磁性は、非晶質母相中の強磁性クラスターの存在に起因して発現することを明らかにした。非晶質母相中に組成が異なるネオジム-ネオジム、ネオジム-鉄、ネオジム-鉄-シリコン磁気クラスターが存在し、これらの大きな磁気異方性を有するクラスターがそれぞれ磁気結合することにより硬質磁性が発現することが明らかになった。また、本研究では、代表的な金属ガラスの臨界冷却速度を算出する方法を考案し提唱し、これまでに知られている代表的な非晶質合金および金属ガラスに対して算出した。さらに、非晶質合金のデータベースを基として、非晶質合金のもつ混合熱および原子サイズ差を混合エンタルピー、ミスマッチエントロピーとして、合金組成の関数として算出した。これらの結果は、今後、バルク非晶質合金を作製する際の指針となるべき基礎的結果を含んでおり、今後、計算機科学を基礎としたバルク非晶質合金の開発の契機となると考えられる。
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