複合アルコキシド法による多成分系強誘電体薄膜の低温製造プロセスの開発を目的として、本年度は、これまで申請者が微粒子合成において取り扱ったチタン酸(バリウム・ストロンチウム)とジルコン酸チタン酸鉛を対象にして、ゾルーゲル成膜法による前駆体溶液合成条件や乾燥・熱処理条件と薄膜の結晶化挙動との関係について調べた。その結果、加水分解に必要な水の濃度が低いほど結晶性の良好な薄膜が得られ、また、主溶媒の種類により結晶化挙動の異なる結果も得られ、最適な溶液合成条件を選定することにより結晶性が良好で且つ低温合成(結晶化)の可能性があることを示唆した。一方、乾燥・熱処理工程については、最適な乾燥・熱処理温度を選定することで薄膜に気泡や亀裂が発生せず良好な膜質が得られた。この点を定性的に検討するためにX線回折による薄膜内部残留応力の測定を行い、熱処理条件や積層数との関係について検討した。その結果、溶媒蒸発温度付近で乾燥処理を行うとともに積層数の低減化を図ることで残留応力が減少し、亀裂のない良質な誘電体薄膜が作製できることがわかった。さらに、低温結晶化の手法として、前駆体溶液に結晶性微粒子を添加して成膜した実験も行った。結晶性微粒子の種類を選定することで、現時点では結晶化温度が約70度低下し、微粒子添加が誘電体薄膜の低温結晶化の有力な手段であることがわかった。今後は、粒子径が数10nmの結晶性微粒子を添加して、更なる低温結晶化と膜質の改善を図る予定である。
|