研究概要 |
1.酵素活性保持に対する凍結乾燥条件の影響 糖にはトレハロース,スクロースを,タンパク質としてLDHを用いて凍結乾燥実験を行った.凍結温度-196℃と-30℃の2種類の糖-LTD試料を作製し,窒素ガス雰囲気で65℃で保存した場合のLDH活性の径時変化を調べた.その結果トレハロース及びスクロースのいずれを用いた場合でも-196℃で凍結した試料(TypeA)より-30℃で凍結した試料(TypeB)の方が活性保持の度合が高かった.XRDを用いて結晶化度を調べたところ,TypeA,Bのいずれもアモルファスであった.しかし動径分布関数はTypeAとBとで異なり,TypeAよりTypeBの方が糖分子の配列がより乱雑であることが示唆された. 2.糖の分子配列の分子論的検討 上述の「アモルファスであっても糖分子配列の乱雑度が異なる」ということについて,具体的には配列がどう異なるのかを検討するため,分子動力学(MD)シミュレーションを行った.なお,簡単のため糖の単成分系に対して計算を行った.アモルファス構造は(1)結晶配置から始めてシミュレーションにおける系の温度を600℃まであげて液体状態とし,その後冷却する(2)乱雑配置から始めて系の温度を600℃まであげ,その後冷却する,という2通りの方法で作成した.得られたアモルファス構造に対し動径分布関数を求めたところ,結晶配置から始めたものより乱雑配置から始めたものの方がより乱雑な配置をとっていることが分かった.両者の分子配列の違いを調べたところ,結晶配置から始めたものは結晶軸のある一方向について規則性が高いことが分かった.以上の結果は,1.で述べた実験により示された動径分布関数の違いが分子配列の乱雑さの違いにより生じているという解釈を支持する.
|