本年度はポリスチレン・ポリカーボネート・テトラヒドロフランからなる1種類のモデル溶液における、乾燥速度・薄膜相分離構造の動的挙動を測定した。 まずアクリル製の風洞を作成し、その内部に風速制御が可能な高速ファン、温度制御が可能なヒータ、及び熱線流速計をそれぞれ設置した。その結果、風速を0.12-0.90m/s±0.02m/の精度で、温度を30.5℃±0.1℃の精度でそれぞれ計測することが可能であった。 この風洞内で、25mm×100mmのガラス板上に形成させたモデル溶液の薄膜を乾燥させ、最小目盛1mgの精密電子天びんを用いた高精度重量測定を行った。薄膜重量変化はパソコンシステムへ転送し、単位薄膜面積当たりの溶媒乾燥速度の時間変化を算出した。その結果、モデル溶液の乾燥速度は乾燥初期においても一定値を示さず徐々に減少し、溶媒蒸発による薄膜表面の温度低下が無視できないことがわかった。そこで微小熱電対を用いて薄膜底面温度の時間変化を測定すると共に、感温液晶並びにシリカ粒子を用いて薄膜内の温度・速度分布の測定を行った。その結果、薄膜表面-底面の温度差を駆動カとするベナール対流が薄膜内に生じており、そのセルサイズは乾燥時間と共に減少していることがわかった。 更に乾燥後の薄膜を、高倍率光学顕微鏡及びCCDカメラを用いて観察した。その結果、乾燥速度の大きな条件では、凸形状を有するポリスチレン相の中に凹形状を持つポリカーボネート相が島状に分布した相分離構造が形成されること、及び、ポリカーボネート相の内部にはベナール対流起因と考えられる引き延ばされた相構造が見られることがわかった。一方乾燥速度の小さな条件では両相の凹凸は減少し、ベナール対流起因の構造は見られなかった。
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