平成11年度に引き続き、ポリスチレン・ポリカーボネート・テトラヒドロフランからなる絶縁薄膜のモデル溶液を通気乾燥し、乾燥速度と薄膜相分離構造との関係を実験的に検討した。昨年度は一定の乾燥条件で実験を行うことで、薄膜内の最終構造が乾燥条件の影響を強く受けることを示した。この結果を踏まえて本年度は、風速を減少させることで乾燥速度のステップ変化を、雰囲気湿度を減少させることで相分離速度のステップ変化を、ある乾燥時刻でそれぞれ与え、相構造発達が乾燥初期・後期のどの領域で決定されているのかを明らかにすることを試みた。 風速のステップ変化より、相構造形成は乾燥初期、中期、後期の3つの領域に大きく分類できることがわかった。乾燥初期には1次相分離により大きな相構造が形成され、その領域は薄膜内にベナール・マランゴニ対流が生じている領域と一致した。乾燥中期には2次相分離による液滴形成とその合一からなる遷移領域が観察された。乾燥後期には合一した液滴による大きな相構造が形成され、その領域は薄膜が固化する領域に対応した。また乾燥速度の測定から、こうした相構造の遷移は風速のステップ変化により乾燥速度がステップ的に変化したためであること、構造形成は溶媒拡散速度に影響を与えていないことが明らかとなった。 一方、湿度のステップ変化より、相構造形成は風速のステップ変化と同様の3領域に分類されることがわかった。しかし風速変化の場合とは異なり、乾燥速度は湿度のステップ変化によって変化しないことがわかった。従って湿度変化による構造変化は、乾燥速度の変化によって引き起こされるものではなく、薄膜中の含有水分が変化することによって相分離が抑制/促進され、相分離速度が変化した結果生じたものであると考えられる。 これらのことから、風速・湿度をコントロールすることによって、目的とする絶縁性能を有するよう薄膜構造を制御できることが明らかとなった。
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