本年度は、超臨界水中での反応を分光的手法により測定できる高圧セルの開発を行った。特に、電子線照射実験に使えることを考慮して設計した。セル本体には、超臨界水に対して耐食性のあるハステロイ C-276を用いた。光学窓にはサファイアを使用した。サファイア窓に直接電子線を照射するとサファイアによる吸収と発光が生じ、測定を妨げるため、電子ビーム照射用の窓をセルに設けた。ハステロイとサファイアの熱膨張率の違いによる圧力漏れを防ぐため、Bellevilleスプリングワッシャーを用いた。セルの最高使用温度は400度、最高圧力は30Mpaである。 このセルを用い、超臨界水をイオン化して生じる水和電子のスペクトルシフトを測定した。常温常圧下では、水和電子のスペクトルピークは720nmにあるが、超臨界水中では1600nmまでシフトした。また、スペクトル幅は広くなった。これは、水分子の作るポテンシャル井戸が浅くなったこと、水和に関与する水分子の数の分布が広くなったことを意味する。また。非常に低密度(0.06g/cm^3)の超臨界水中にも、水和電子が生成することが分かり、水和電子は、水分子の作る水素結合などの変化および反応速度の変化を知るための、有効なプローブ分子となることが明らかとなった。
|