ホウ素をドープしたダイヤモンドは、化学的に安定で、バックグラウンド電流が低く、電位窓が広いという特徴を持つ。本研究では、このようなダイヤモンド電極の特徴を活かし、ペルオキシダーゼなどの酸化還元酵素や、そのモデル物質であるヘムペプチドと電極との電子授受を行わせ、熱力学的、および速度論的に評価することを目的とした。電極としては、作製したままの状態の水素終端ダイヤモンド電極と、それを酸素プラズマ処理したものを用いた。これらの電極上に、酵素ペルオキシダーゼを吸着または架橋法によって固定化し、+0.15Vvs.Ag/AgClの電位における過酸化水素に対する還元電流応答を調べた。その結果、小さいながらも応答が得られたことから、ダイヤモンド電極からペルオキシダーゼへの直接電子移動が可能であることがわかった。また、エッジ面のパイロリティックグラファイト(EOPG)やグラッシーカーボン電極と比較したところ、sp2炭素をほとんど含まないダイヤモンド電極に比べ、sp2炭素の多いグラッシーカーボンの方が電子移動特性に優れ、sp2炭素のみからなるEOPGはさらに優れた特性を示したことから、ペルオキシダーゼの活性中心への直接電子移動に対し、sp2炭素が非常に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、ダイヤモンド電極や、それを酸化処理したものの表面の構造と、電子移動特性との関連についても調べ、表面の酸素含有官能基が重要な役割を果たしていることを示唆する結果が得られた。さらに、酵素チロシナーゼをダイヤモンド電極上に固定化することにより、フェノールやカテコール、女性ホルモン活性を持つビスフェノールAなどを定量できることを明らかにした。
|