研究概要 |
本年度は、導電性高分子の構造と移動度の関係についての知見を得ることを目的に、次の(1)〜(3)の膜の移動度を、ドープ率を制御し測定した。さらに、ESR測定,紫外-近赤外吸収測定を同時に行うことにより、各膜のキャリアの同定も試みた。 (1)まず、最も一般的なアモルファス状のポリマーとして電解重合で作製したポリチオフェン膜の移動度の測定を行った。電気化学ドープを行うことにより移動度が約4桁上昇した。一般にSiなどの無機半導体では、ドープを行うと移動度が減少することが知られており、ポリチオフェンの結果は非常に興味深い。ESR測定などにより、ドーピングにより生成しているキャリアがポーラロンからバイポーラロンに変化することにより移動度が急激に増加することが確認された。 (2)次に、高度に配向したポリマーとして、regioregularポリオクチルチオフェンの移動度測定を行った。低ドープ領域では(1)の1000倍の移動度を示し、ポリマーを高度に配向させると高い移動度が期待できることが確認できた。この移動度はドープ率を増加していくに従って約1桁減少し、その後3桁増加するという複雑な変化をすることを発見した。この理由解明は来年度の重要な課題である。 (3)ポリマーのモデル化合物としてオリゴチオフェン類の移動度の測定を行った。紫外-近赤外吸収測定などによりオリゴチオフェン膜でのキャリアはポーラロン、バイポーラロンの他に、πダイマーと呼ばれる新しい化学種が存在することが確認された。また、移動度は(1)、(2)のいずれよりも低い値となったが、π共役系が短く、キャリアの移動は鎖間の移動が主体になるためであると考えてる。 次年度は更に多様な化合物を測定し、分子構造とキャリア移動度との相関を明らかにする予定である。
|