本年度は最終年度であり、(1)アモルファス状の有機半導体ポリマー、(2)アモルファス状のオリゴマー、(3)高配向性の有機半導体ポリマーについて移動度を測定し、分子構造・膜の構造と移動度の関係、電荷移動メカニズムについて、得られて結果を総括する。 (1)アモルファス状の有機半導体ポリマー(ポリチオフェン類)は未ドープの状態で移動度が10^<-6>〜10^<-5>cm^2V^<-1>s^<-1>程度で電気化学的にドープをすると10^<-1>〜10^<-2>cm^2V^<-1>s^<-1>程度まで移動度が単調に上昇する。この単調に移動度が上昇する現象は、ポリアセチレンなどの、他のアモルファス状の導電性高分子にも見られる現象である。 (2)アモルファス状のオリゴマー(オリゴチオフェン類をSiで架橋した有機半導体ポリマー)は未ドープの状態で移動度が10^<-6>cm^2V^<-1>s^<-1>程度で電気化学的にドープをしてもほとんど移動度の変化は見られず、むしろやや減少する傾向が見られた。これはポリマーとオリゴマーの大きな違いであり、本研究にて、発見された結果である。 (3)高度に配向した有機半導体ポリマーは未ドープの状態で移動度が10^<-2>〜10^<-3>cm^2V^<-1>s^<-1>程度と非常に高い値を示すが電気化学的にドープをすると一度移動度が減少し高ドープで10^<-1>〜1cm^2V^<-1>s^<-1>程度まで移動度が上昇することが見出された。 ESR、UV-Vis-NIRなどの測定により未ドープではキャリアはいずれもポーラロンであった。この移動度がアモルファス状のポリマーとオリゴマーに大差がなく、配向すると大いに速くなる。すなわち、ポーラロンのホッピングは主鎖上ではなく、分子間のホッピングが律速になっており、アモルファス状の物ではそれがほぼ同程度、配向すると速くなることが想像できる。また、発生キャリア種としてバイポーラロンが生成することにより移動度の増加が、πダイマーと言われる新しいキャリア種が生成することにより移動度の減少が引き起こされることも示唆され、ドープしたときの移動度の様子は発生キャリア種に大きく依存しており、発生キャリア種を特定して、移動度の変化を議論することが必要であることが、本研究を遂行して得られた、新たな知見であり今後の課題でもある。
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