本研究では、アンチモン(V)テトラフェニルポルフィリン錯体の軸配位子として可視光補集機能を持つ分子を導入した新規ポルフィリン錯体の合成とその光物性について検討した。その結果、可視光補集分子として500nmに極大吸収波長を持つボランージピリン錯体を選択し、この錯体配位を軸配位子として導入したアルチモンポルフィリン錯体の合成に成功した。この場合、2つのボランージピリン錯体部位が軸配位子として導入された対称型のポルフィリン錯体が得られた。合成したポルフィリン錯体の吸収スペクトルを測定した結果、ポルフィリン部位の吸収スペクトルとボランージピリン部位の吸収スペクトルの単なる重ね合わせのスペクトルが得られ、ポルフィリン環とボランージピリン部位との電荷移動等の相互作用は存在しないことがわかった。蛍光スペクトルの測定より、軸配位ボランージピリン部位からポルフィリン環の励起一重項状態への分子内電子移動が進行することがわかった。またさらにボランージピリン部位のみを光励起(500nm)すると、ボランージピリン錯体自身の蛍光が著しく消光されるととも、ポルフィリン環からの蛍光が観測された。このことは、励起ボランージピリン部位からポルフィリン環への一重項励起エネルギー移動が起こったことを示している。蛍光量子収率の測定結果から、このエネルギー移動効果は約90%となり高効率な過程であることが明らかになった。このように今回軸配位子として導入されたボランージピリン錯体はポルフィリン環に対して十分な可視光エネルギー供与分子となり得ることがわかり、軸配位方向へ制御された光エネルギー補集伝達機能を持つポルフィリン複合分子系の構築の足がかりとなる成果が得られた。
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