我々は界面活性剤の二分子膜層状ミセルを鋳型として層状酸化チタンを合成し、水熱処理によって層状の酸化物骨格を結晶化させることに成功した。さらにこの結晶性層状酸化チタンが半導体光触媒として働くことを既に報告している。本年度は、この層状酸化チタンの合成条件が生成物に与える影響を調べるとともに、二次元的な量子閉じ込め構造に起因する量子サイズ効果について考察した。さらに層状構造を持つ酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化バナジウムの合成についても検討した。 層状酸化チタンの生成時におけるpHを上昇させていくと、pH=7までは回折ピークが鋭く強くなるとともに、全体的に低角度側にシフトした。これは層状構造のドメイン領域の拡大と、繰り返し周期の増大を示している。一方、pH=10では生成物のXRDパターンは逆にブロードになった。酸化チタンの等電点(pH=6.2)より塩基性側では酸化チタン層は負に帯電するため、負電荷を持つ界面活性剤との相互作用が弱まったためと考えられる。120℃で24時間処理した層状酸化チタンの(100)面間隔は37.7Åで、界面活性剤のドデジル基が伸びきった状態の分子長さ18Åのほぼ二倍に相当した。このことから、二分子膜状に集合した界面活性剤と酸化チタンシートが交互に積層した二次元層状構造が形成されていると考えられる。 水熱合成によって層状の酸化スズや酸化ジルコニウムの合成も試みた。酸化チタンの場合と比較して酸化スズおよび酸化ジルコニウムのXRDパターンはブロードであったが、層状構造に帰属されるピークは確認された。酸化スズの繰り返し周期は36.5Åで、酸化ジルコニウムでは38.5Åであった。酸化バナジウムについては塩化アンモニウムの共存下で120℃で72時間水熱反応させることにより、やはり層状構造酸化物が得られた。 水熱処理で結晶化した層状酸化チタンのバンドギャップエネルギーはバルク結晶試料に比べて210meV増大していた。超微粒子の量子サイズ効果について報告されているBrusの式から計算したサイズは1.8nmであり、電子顕微鏡観察から得られた酸化物層の厚さ9Åのちょうど2倍に当たる。Brusの式が第一次近似的なものであることを考慮すると、非常に良い一致が得られた。
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