本年度は、前年度の知見に基づいて、界面活性剤の二分子膜層状ミセルを鋳型とした二次元層状酸化物半導体として酸化鉄および酸化ビスマスを合成するとともに、前年度までに得られた層状酸化チタンについて、その光学スペクトルからバンド端近傍の構造を詳しく検討した。 層状の酸化鉄および酸化ビスマスの合成については、層状酸化チタンと同様に界面活性剤としてドデシルリン酸ナトリウムを用い、金属源にはそれぞれの硝酸塩を用いた。界面活性剤ミセルを鋳型として合成した酸化物半導体は、いずれも層状酸化物に特有の(h00)回折線のみを示した。層状酸化鉄の水熱処理前の(100)面間隔は37Åであった。界面活性剤分子の長さは約18Åなので、分子軸がやや傾いた界面活性剤の二分子膜と酸化物層とが積層していると考えられる。12hの水熱処理によって酸化チタンの場合と同様にピークはシャープになり、24hの処理後にはピークは著しく突鋭化するととも(100)面間隔は34Åに減少した。水熱処理により、酸化物骨格の構造欠陥や不規則性が大幅に減少したと考えられる。 バルクのFe2O3の吸収端は580nm付近に観察されるが、得られた層状酸化鉄の吸収端は380nm付近と大幅に短波長シフトしている。これは、量子閉じ込め効果によるバンドギャップの増大を示唆している。さらに、吸収端の低エネルギー側に鋭い吸収ピークが出現しており、バルク試料には見られなかった励起子吸収の存在が示唆される。室温で励起子吸収が観測されるのは超微粒子などの量子閉じ込め構造に特徴的である。酸化ビスマスについても同様の層状構造酸化物が得られ、吸収端の大幅なブルーシフトが見られた。 次に、水熱処理により光触媒活性が発現した層状酸化チタンについて、拡散反射スペクトルをKubelka-Munk変換により吸光度αに変換し、バンド端近傍の構造を検討した。αのエネルギー依存性は低エネルギー側では間接遷移を、高エネルギー側では直接遷移を仮定した理論式にそれぞれ良く合致しており、間接遷移型半導体のバンド構造を良く反映したものとなっている。間接遷移バンドギャップはバルク結晶であるP-25より0.35eVブルーシフトしていた。Brusの式より求めた粒子サイズ2Rは1.4nmで、TEMで見積もられた酸化チタン層の厚みとほぼ一致する。さらにPLスペクトルを測定したところ、室温および77Kにおける層状酸化チタンのスペクトルには380nm付近にバルクには見られない新しい発光成分が現れた。この発光成分の位置は層状酸化チタンの短波長シフトした吸収端に良く一致していた。 有機分子集合体を利用することで、金属酸化物半導体などの無機物質の低次元量子閉じ込め構造を容易に合成できるため、「材料ナノテクノロジー」の一つの重要な方向性と考えられる。
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