当該研究課題の成果について国内発表4件、海外発表2回を行った。また、アメリカ化学会発行の論文誌The Journal of Physical Chemistry Aに二件の論文を発表した。初年度は真空紫外レーザー光によりホット状態(光励起直後に無輻射失活によって生じる超高温(高振動励起)状態)の生成があるかどうか、ホット状態生成が気相光化学反応においては支配的、普遍的であるかどうかの可能性をこれまでに試みられていない種々の分子において探索することを目的とした。このため、まず測定装置の改良、特に測定ノイズ低減の達成、試料設置部の改良を行い良好な実験データを得ることが出来た。対象とした有機分子は多岐にわたるが、アルキルアレン類、アルキン類、多環芳香族化合物、カルボニル化合物、アミン等で、常温では蒸気圧が小さくこれまでに実験が試みられていない分子である。カルボニル化合物では1光子反応ではあるが、有機合成化学的に重要な中間体であるベンザインの生成がホット状態からのものであることを示すことができた。さらにクマリンではホット状態を経由した2光子反応による新たな反応、脱一酸化炭素反応を見いだすことが出来た。これまで炭化水素化合物以外ではホット分子を経由した多光子反応は見いだされておらず、これが初めての例であり、従来光化学的に不活性だと考えられてきた分子も、ホット分子機構の特色を最大限生かした研究を進めることで新規反応を開拓することが出来ることを示した。
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