当該研究課題の成果について国内発表4件、国外発表1件を行った。アメリカ化学会発行の論文誌The Journal of Physical Chemistry Aに1件の論文を発表した。また日本化学会欧文誌のAccountsに原稿を依頼され、初年度の結果を含めて種々の分子に気相中、真空紫外レーザー光を照射して生じるホット分子の反応の多様性、その他の反応機構に関する結果が平成13年度4月号に掲載される予定である。本研究費補助金の最終年度においては初年度に得られた結果を基に主に多光子反応、即ち単一のレーザーパルスで誘起するホット分子反応に着目した。「レーザーによる多光子反応」の報告ではそのほとんどがイオン化である。特に真空紫外光を用いた場合は2光子で容易に分子のイオン化ポテンシャル以上のエネルギーとなるためイオン化が生じるが、ホット分子機構の場合、エネルギーは極めて高速に分子全体の振動エネルギーに分配されるため2光子目を吸収する場合においてもイオン化ポテンシャルを越すことは無い。そのため化学反応が生じることが大きな特徴である。これは溶液中での反応と全く異なっている。多光子吸収により反応速度の数桁に及ぶ飛躍的な増大が期待出来ること、中性ラジカルを生じること、通常の熱反応と異なり生成物は短時間で冷却されるため熱的には不安定である生成物が期待できることも大きな特徴である。試みた分子の多くは2光子過程で反応が生じたが、トリフェニルメタンでは3光子吸収により反応が進行する例を見いだした。従来光化学的に不活性だと考えられてきた分子も、ホット分子機構の特色を最大限生かした研究、特に多光子反応を進めることで新規反応を開拓することが出来ることを示した。
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